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新・大手食品営業マンの告白~カバちゃん伝説(2)

山笠太郎

<交際費青天井の自由人>

 「ところでさぁ、最近のヨコシマ食品(仮称)はどげんね?相変わらず藤波さんはイケイケで暴れと~と?」。□□グループの親しいチーフバイヤーと小生は時折、商談室で声を潜めて談笑する。

 「山笠さん…まぁね、僕らは藤波のことはど~でもいいっていうか、実際の仕事ベースではほとんど絡むことはないし、今や影響力もないんですけどね。チョロチョロ意味もなく首突っ込んでくることもあるので、ぶっちゃけウザいんですよ。てめえ何様?って、我々現場はムカついている。いかんせん、あいつのバックにはうちの五木常務が付いているのでね。余計なこと言って、五木常務にチクられたりでもされたらそれはそれで、かなり面倒ですしね。実際、藤波に噛み付いてバイヤーをクビになった奴もいるのでねぇ…まぁ触らぬ神にたたりなしですわぁ」と、無関心を装うように、もうこの話はせんといてぇモード全開だった。

 本来ならば、藤波専任部長の上席や上司に当たるヨコシマ食品の専務、常務、取締役、本部長の面々も、日頃の「目に余る」言動や交際費の使い方について文句や注意をしたいところなのだろうが、□□グループの五木常務との蜜月関係を背景にした絶対的オーナーである横島社長の、その「猫かわいがり」ぶりを見るにつけ、誰一人もの申せずにいた。まさに交際費青天井の自由人と化していたのだ。

 横島社長もさすがにそんな社内の微妙な雰囲気を察知してか、先代から仕えている「中卒」叩き上げの懐刀で、喜寿を過ぎてもゴルフはカートに乗らない「小走りプレー」の大久保専務に対しては、「(カバは)役員にはさせないし、本部長のようなラインポストにも就かせないようにするから…」と、皆の不平不満に対して折り合いを付けるように説明していたらしい。

 カバちゃんは「この会社はマーケティングや販売分析のデータが整備されていない」、「皆さん食品会社なんですから、こんな味音痴じゃ恥ずかしいでしょ」、「はぁ~、そんな味も見分けられないんですかぁ」が口癖だったという。また、ある食材を納めている取引先ユーザーの社長と仕入れ担当者に対して、「よくこんなまずい商品作られてますねぇ」とぶっ放し、先方から「2度と連れて来るなっ!」と凄まじい剣幕で追い返されたこともあったらしい。

 

<カバちゃんはかんしゃく持ち>

 普段はソフトな語り口のカバちゃんだが、怒りのツボにはまると、突然かんしゃくを起こしたかのように、ノッペリとした色白の顔を烈火のごとく赤くしてヒステリックに怒り出す。その怒り方の「意表さ」と「異様さ」は、小生も生まれて初めて見る光景だった。

 怒られた側も一瞬何が起きたのかと、唖然としている姿をこれまでに何度も見かけた。そうして、その後は徹底的に相手を追い込む。出口を塞いでガンガンやっちまうものだから、怒られた方はたまったものじゃない。幸いなことに小生は、会社が違うこともあり、被害を免れることができた。

 日本でも有数の某歓楽街のカラオケスナック。夜のクラブ活動も大好きなカバちゃんは、別名「ヨコシマ食品のミスター交際費」と呼ばれていた。その割に、大勢で飲むのが苦手なカバちゃんは、部下の大谷クン1人を引き連れカラオケスナックへ。しょっちゅう同伴出勤を目撃されているお気に入りのお店の「みどりちゃん」を横にはべらせて気持ちよく歌っていた。

 その夜は、いつものホームグラウンド「スターダスト」ではなく、大谷クンが、同業者らとたまに弾けている「いい店あるんですよ」と「ホワイトナイト」にカバちゃんを誘っていた。奥の席では中高年が6人、バカ笑いと下品なネタで盛り上がっていた。カバちゃんはカラオケを歌い終わるや否や「お前らいい加減にしろ!ほかの客の迷惑だ。失礼にもほどがある…」と、いつものパターン、突然かんしゃくを起こしたかのように怒鳴りつけた。

 一瞬にして、店内がシーンと静まり返ったことはいうまでもない。何が起きたのか…?と呆気に取られていた6人組だったが、ほどなくそのうちの1人が「あれぇ、あんたヨコシマ食品の藤波さんだよね、いやいやそれは申し訳ないことしたね。今日はね、俺たちメーカー5社で△△商事の土井本部長を囲む会をやっててね」とオトナな対応?をした。

 土井本部長はゴルフで日焼けした顔を引きつらせながら、「いやぁ、それは藤波さんに悪いことをしちゃったねぇ。まぁ、ぼくらご覧のとおりアホっすから。どぉ、皆さん。藤波さんにご迷惑だからボチボチお開きにしませんかぁ?」

 ほかの面々も「そうですねぇ、藤波さんゴメンね」と、周囲もビックリの穏やかな対応だ。その心はというと「土井本部長を怒らせたヨコシマ食品はこれでフェードアウトだぁ!」的な喝采。内心したたかに、「ここでつまらん諍いを起こして喧嘩両成敗なんてことになったら損だ」と、肩すくめて舌を出していたのは言うまでもなかろう。

 

<プロフィール>

山笠太郎(やまがさ たろう)

 1960年生まれ。三無主義全盛のなか、怠惰な学生生活を5年過ごした後、大手食品メーカーにもぐり込む。社内では、山笠ワールドと言われる独特の営業感で今日に至る。博多山笠は日本一の祭りであると信じて疑わない。

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