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新・大手食品営業マンの告白~大阪恋物語“番外編”(4)

山笠太郎

<絶大な信頼>

 大阪支社コンシューマー部門の責任者である細田次長から月末、「ジンさん、また賞味期限切れ間際の商品が1,000ケースあるんだけど…」と独り言のように、売れとも売るなとも言わない、ずるい指示が出る。

 全てを察したジンさんは「よっしゃ、ほなすぐ動きますわ」と、ちょちょいのちょいと処分販売を完了させるのが月末の恒例行事だった。不良在庫を毎月捌いてもらっておいて、細田次長は「ジンさん、いくらなんでも、もう少し高く売れないもんかねぇ…相変わらず支社の平均単価と利益率を下げる安売りの帝王だよなぁ」と、毎月の営業会議で虫の良いことをのたまう。

 また、「そやでぇ、ジンさんやりすぎやでぇ。あかんてぇ」と自分が残した残骸を処分してもらって、揚げ足を取る営業マンもいる。その度に「関西人ってずるかねぇ…」と九州男児の血が騒ぐ太郎ちゃんがいたりする。その都度、ジンさんは細田次長に対し、関西人特有のお笑いネタでボケまくってかわしつつ、小生の顔をちら見し、普段絶対見せたことのない悲しい目をするのであった。ジンさんは処分販売ルートの曲者オーナーたちからも、「ジンちゃん」と絶大な信頼を得ていた。

 とくに△△通商のガモウ社長との仲は格別で、ガモウ社長の愛人と奥さんの間での「切った張った」の揉め事の相談から仲裁、バクチで大損こいたときなども奥さんの所に一緒に謝りに行ってあげるなど、「お金の貸し借り」以外のガモウ社長からの「よろず相談事」には相当乗ってあげているようだった。そんなわけで「強面曲者」のガモウ社長もジンさんには頭が上がらなかった。小生、そんなジンさんとはなぜかウマが合った。

 

<ジンさんはジャズマニア>

 秋も深まってきたある日の出来事である。「山笠はん、今度難波のジャズバーへライブ見に行きまんねん、付き合うて~やぁ?」とジンさんに誘われた。続けて「尼のなぁ(尼崎のこと)コテコテ物産の浪速社長がジャズをご馳走してくれまんねん」。どうやら食品処分販売ブローカーであり、「ジャズ命」な「飛ばしのテッチャン」こと浪速社長が、ジャズ好きのジンさんをジャズライブにお誘いしたらしかった。

 浪速社長が現在応援している若手美人ジャズピアニストが、トリオでライブを演じるというので誘われたらしい。浪速社長が難波のジャズライブハウスに行くときには、まず寿司屋で腹ごしらえしてから…というルーティンがあり、その行きつけの寿司屋で待ち合わせとなった。小生が寿司屋と聞いただけで「なんぼすんねん」的にビビっていると、「浪速社長がな、今回はぜ~んぶご馳走してくれまんねん。かまへん、かまへん」とジンさんは意に介していない。浪速社長的には行きつけの寿司屋に行って、常連のジャズクラブに…と、日頃お世話になっているジャズ好きのジンさんをご招待したいとのことだった。

 それと、この「闇ルートな業界」には、バクチや女が好きで演歌大好き人間はぎょうさんいるのであるが、ジャズ好きなジンさんは貴重な存在なのだ。

 ジンさんは「社長、うちにな、もう1人ジャズ好きがおりまんねん」と、さすがにドケチでえげつない浪速社長にビビりながら小生を絡ませてきたのだ。浪速社長指定の寿司屋「キタ寿司」に到着し、待つこと30分。

 「いやぁジンちゃん遅れてゴメン」と60代後半のいかにも的な強面俳優然とした深みのあるシワを毛穴の浮いた皮膚にたっぷり刻んだ顔をクシャクシャにして社長が現れた。「社長、今日はお邪魔虫で参りました。お言葉に甘えて、お世話になります」と小生はペコンと頭を下げた。

 この夜、ご機嫌な浪速社長は、我々を尼崎の自宅にまで招待してくれた。20畳はあろうかという「趣味の部屋」は防音設備バッチリ、数百万円はすると思われるオーディオ機材がデ~ンと陣取っていた。

 その部屋では、浪速社長の強面は影を潜め、全くもってオーディオ&モダンジャズオタクな良きおっさんだった。モダンジャズの「お宝」レコードやCDを喜々としてかけまくり、オーディオの説明をしてくれるのだった。

 豪邸からの帰りしなジンさんは、「山笠はん、人間ちゅうもんはおもろおますなぁ…あのごっつぅ強面の浪速のおっさん、あそこまでオーディオに凝ってはるとは思わなんだなぁ」と、しみじみと小生に語りかけるのであった。新月に薄雲が流れるようにかかっていて、なんだか任侠映画に出てきそうなワンシーンだった。

(つづく)

 

<プロフィール>

山笠太郎(やまがさ・たろう)

 1960年生まれ。三無主義全盛のなか、怠惰な学生生活を5年過ごした後、大手食品メーカーにもぐり込む。社内では、山笠ワールドと言われる独特の営業感で今日に至る。博多山笠は日本一の祭りであると信じて疑わない。

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