【解説】
<業界側は“棚ボタ”と“墓穴”>
同検討会は今年1月にスタートし、この日を含めて10回の会合を重ねた。その結果、大筋で合意にたどり着いた。関与成分が明確でない食品については、新たな要件を設け、制度の対象とすることで合意。一方、ビタミン・ミネラルは制度に追加しない方向で、各委員の意見が一致した。
関与成分が明確でない食品のうち、植物由来エキスと分泌物を制度に追加することで合意に至ったが、これは業界が勝ち取ったものではない。合田委員が終始議論をリードするなか、「既に受理されたものにクラス1・2に該当するものがある」と指摘したことで、“救済”の観点から、一気に議論が進んだわけだ。つまり、業界にとっては“棚ボタ”のかたちとなった。
一方、ビタミン・ミネラルに関する業界の要望が却下された理由には、健康被害の懸念や、国の健康・栄養政策との整合性が取れないことなどがある。しかし、議論を振り返ると、それだけではなさそうだ。業界側がプレゼンや発言で自ら墓穴を掘り続けた結果、ほかの委員の理解を得られなかったことも要因に挙げられる。このため、業界内では「業界団体の首脳陣は大丈夫?」など、人事や組織のあり方を問題視する声が出始めている。
同検討会は、業界関係者が政治家へ陳情したことにより、前倒しで始まったといわれている。消費者利益や制度の信頼性を考えた場合、本来ならば、制度全体の見直し(レベルアップ)を済ませた後に、積み残し課題であるビタミン・ミネラルなどの取り扱いを議論することが、適正な順番だった。
そうした事情を知った消費者委員やアカデミア委員らが、どのような気持ちで同検討会に臨むのかという点に、業界関係者は思いをはせることができなかったようだ。消費者利益を軽視するような振る舞いによって、業界側は反発を招く状況を作り出していたと言える。
業界側は政治圧力を背景に、早期に同検討会の開催を実現させた。しかし、会合では適切な提言がほとんどできず、消費者委員やアカデミア委員にノックアウトされた。唯一の救いは、業界自らのプレゼンによって、糖質・糖類の一部を制度に追加できたこと。関与成分が明確でない食品が制度に追加されることもあるが、前述のとおり、これは“棚ボタ”である。
ただし、同検討会を開催した意義はそれなりに大きかったと言える。河野委員が「今回の議論はムダではなかった。合田委員の指摘がなければ、そういった問題に気づかずに、機能性表示食品と向き合うことになっていた」と発言したように、議論を通じていくつかの問題点が浮かび上がった。
関与成分が明確でない食品が既に受理されていることが発覚した点も、その1つ。さらに、複数の成分をミックスした商品でも、どの成分が効いているのかがはっきりしないという同様の問題を抱えていると指摘された。これらは、制度の信頼性を確保するために、早急に解決しなければならない問題だ。また、届出資料のレベルアップに向けて、業界団体が事前チェックを行うこともなども、今後の課題に挙がった。
機能性表示食品制度は適切に運用されれば、消費者利益と業界利益の両方につながる。そのためには、同検討会で持ち上がった問題点を1つひとつ解決することが必要となる。業界関係者には、課題に向き合う“本気度”が問われている。
(了)
【木村 祐作】